動画共有サイトYouTubeでは、動画を投稿するクリエイターに対し、公開するコンテンツが「子ども向けに制作された動画」に該当するかどうかを申告する、新たな視聴者設定が導入されました。
今回の変更は、米国の児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)への対応を目的としたもので、2020年1月からは子ども向け動画の広告配信やコメント機能などにも制限が加わる予定です。
YouTuberをはじめとする動画投稿者にとって、広告収益やチャンネル運営にも影響する重要な規制となるため、変更に至った経緯や子ども向け設定の判断基準、制限される機能についてまとめました。
今回の規約変更の内容
今回のYouTubeの規制強化を理解するうえで、まず知っておきたいのが、2019年に米国で問題となった子どもの個人情報の取り扱いです。
2019年2月27日、米連邦取引委員会(FTC)は、人気動画共有アプリTikTokの前身であるMusical.lyの運営会社が、13歳未満の子どもの個人情報を保護者の同意なく収集していたとして、児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)違反を申し立て、570万ドル(当時の為替レートで約6億3000万円)の制裁金を支払うことで和解に合意したと発表しました。
同様に子どもの個人情報の取り扱いが問題となっていたGoogleとYouTubeに対しても、2019年9月4日にFTCとニューヨーク州司法長官が和解案を発表し、両社は合計1億7000万ドルの制裁金を支払うことで合意しました。
内訳はFTCに対して1億3600万ドル、ニューヨーク州に対して3400万ドルとなっており、当時のCOPPA違反に関する制裁金としては過去最大の規模でした。
YouTubeで問題となったのは、子ども向けと認識していたチャンネルの視聴者から、保護者の同意を得ることなく個人を継続的に識別できる情報を収集し、ターゲティング広告の配信に利用していたことです。
この個人情報の収集に関係しているのが、インターネットを利用する際によく使われるCookie(クッキー)などの識別技術です。
Cookieとは、ウェブサイトを閲覧した際に、ブラウザに保存される小さなデータのことで、ログイン状態の維持や利用者の設定、ショッピングカートの内容を記憶する仕組みなどに利用されています。
例えば、ネットショッピングで商品をカートに入れたままブラウザを閉じても、後日同じサイトを訪れると商品が残っていることがあります。これはCookieに保存された識別情報と、ウェブサイト側のシステムなどを組み合わせて実現している機能の一例です。
Cookieは便利な仕組みですが、利用方法によっては、同じ利用者がどのようなサイトを閲覧しているのかを継続的に把握し、興味や関心に合わせた広告を表示することもできます。
今回の問題はCookieそのものが違法とされたわけではなく、子ども向けコンテンツの視聴者から、保護者の同意を得ずに広告配信用の識別情報を収集し、行動に基づく広告配信に利用していた点にあります。
FTCの申し立てでは、YouTubeがこうしたターゲティング広告によって数百万ドルの収益を得ていたことも指摘されています。
GoogleとYouTubeの和解条件には、制裁金の支払いに加えて、チャンネル運営者が子ども向けコンテンツを識別できる仕組みを開発・導入することが含まれていました。
この条件に対応するため、YouTubeは動画投稿者がコンテンツの対象年齢を申告する新たな視聴者設定を導入し、子どもの個人情報の収集と利用を制限する方針を打ち出したのです。
COPPAとは?
| COPPA(Children’s Online Privacy Protection Act)は、1998年に米国で制定された児童オンラインプライバシー保護法で、関連規則は2000年4月21日から施行されました。
13歳未満の子どもの個人情報をインターネット上で保護することを目的としており、子どもを対象とした商用ウェブサイトやオンラインサービスの運営者などに、個人情報の収集や利用について一定の義務を課しています。 主な義務には、次のようなものがあります。
COPPAは子ども向けサイトだけでなく、13歳未満の子どもから個人情報を収集していることを認識している一般向けサービスなどにも適用されます。 |
Youtubeでの規制内容
今回の規制を受けて、YouTube Studioの動画編集画面には「この動画は子ども向けですか?」という視聴者設定が追加されました。
初めて見たときは、子どもでも安心して視聴できる動画を優遇するための設定なのかと思いましたが、実際にはCOPPAへの対応として、動画が子どもを対象に制作されたものかどうかを申告する項目となっています。
そのため、子どもでも視聴できる動画だからといって、必ずしも「はい、子ども向けです」に設定する必要はありません。
YouTubeの公式ヘルプでは、子ども向けコンテンツに該当するかどうかについて、FTCの指針を踏まえた判断基準が示されています。
子ども向けコンテンツの判定では、主に次のような要素が考慮されます。
- 主な視聴者として子どもを対象に制作されている動画
- 子どもが主な対象ではなくても、内容や演出などから子どもを視聴対象の一つとしている動画
- 未就学児向けの教育動画など、コンテンツの主題が子どもを対象としているか
- 制作者が想定している視聴者や、実際に視聴している人の年齢層
- 子役や子どものモデルが登場するか
- 子どもに人気のあるアニメキャラクターや有名人、おもちゃなどが登場するか
- 動画内で使われている言葉や説明が、子どもに理解できることを想定しているか
- 子ども向けの遊びやゲーム、歌、物語、幼児教育などを内容としているか
- 視聴者の年齢層に関する客観的な情報など、対象視聴者を判断するための資料があるか
これらの要素を総合的に判断する必要があり、いずれか一つに該当しただけで、自動的に子ども向けコンテンツと判定されるわけではありません。
米国のCOPPAでは13歳未満を子どもと定義していますが、国や地域によって関連法令の年齢基準が異なる場合があります。
参考:Youtubeヘルプ
つまり、子どもが出演している動画や、子どもでも楽しめるコンテンツが、すべて規制対象になるわけではないということです。
例えば、綺麗な映像を使ったアニメーション作品でも、幅広い年齢層を対象としている場合と、未就学児向けに制作された教育アニメでは、視聴者層の設定が異なる可能性があります。
同様に、家族旅行の観光動画や親子で楽しめるイベントの紹介動画であっても、子どもを主な対象として制作されたものでなければ、必ずしも子ども向けコンテンツには該当しません。
重要なのは、動画の内容や表現方法、想定する視聴者などを総合的に判断することであり、YouTubeの子ども向け設定と、誰でも安心して視聴できるかどうかは別の問題となります。
また、「子ども向けではない」に設定した動画が、自動的に18歳以上しか視聴できなくなるわけでもありません。
今回の視聴者設定は、検索順位や関連動画への表示を優遇するための仕組みではなく、子どもの個人情報を保護することを目的としたものです。
コンテンツを子ども向けとして設定するとどうなってしまうのか?
YouTubeの子ども向け設定は、動画ごとに個別指定することも、チャンネル全体に適用することもできます。
すべての動画が子ども向けであるチャンネルでは一括設定が便利ですが、一般向け動画と子ども向け動画が混在している場合は、個別に判断する必要があります。
YouTubeでは2020年1月から、子ども向けとして指定されたコンテンツについて、視聴者の個人情報を利用する機能や、視聴者との交流に関係する機能などを制限する方針です。
子ども向けとして設定された動画やライブ配信では、COPPAへの対応として、次のような機能が制限または無効化される予定です。機能によってはチャンネル全体にも影響し、通知などの一部機能についても制限が設けられます。
- パーソナライズド広告
- コメント
- チャンネル メンバーシップ
- チャンネルの画像・ロゴの透かし
- 寄付ボタン
- 情報カードまたは終了画面
- チャットまたは Live Chat Donations
- ミニプレーヤーでの再生
- Super Chat または Super Stickers
- 再生リストへの保存
- YouTube のグッズの棚
こうして見ると、子ども向け動画を制作しているYouTuberにとっては、かなり大きな影響がありそうです。
特に、子ども向けアニメやおもちゃの紹介、幼児教育、子ども向けの歌やゲームなどを中心に配信しているチャンネルでは、コメントによる視聴者との交流や、終了画面を使った他の動画への誘導が制限されることになります。
チャンネル運営では、動画の最後におすすめ動画や再生リストを表示して、他のコンテンツも続けて視聴してもらう方法が一般的ですが、子ども向け設定によってこうした機能も利用できなくなるため、再生回数や視聴者の回遊にも影響する可能性があります。
さらに気になるのが、YouTubeの子ども向け設定による広告収益への影響です。
今回制限されるパーソナライズド広告とは、視聴者の興味や関心、ウェブサイトの閲覧履歴などの情報を利用して、個人に合わせた広告を配信する仕組みです。
子ども向け動画では、このパーソナライズド広告が停止される予定ですが、広告そのものが全面的に表示されなくなるわけではありません。
動画の内容などに応じて広告を表示するコンテキスト広告は引き続き利用できるため、子ども向けに設定しただけで広告収益が完全になくなるということではないようです。
ただし、一般的にパーソナライズド広告は広告主の求める視聴者へ配信しやすい仕組みであるため、停止によって広告単価が下がり、チャンネルによっては収益が大きく減少する可能性があります。
YouTubeで子ども向け動画を中心に収益化しているクリエイターにとっては、今回の変更が今後のチャンネル運営を左右する問題になりそうです。
一方で、収益への影響を避けるために、実際には子ども向けである動画を意図的に「子ども向けではない」と申告することにも注意が必要です。
YouTubeでは機械学習によって子ども向けコンテンツを識別する仕組みも導入する方針で、申告内容が不適切だと判断された場合は、YouTube側が設定を変更する可能性があります。
また、故意に誤った視聴者設定を行った場合には、YouTubeによる措置や、COPPA違反に伴う法的な責任が問題となる可能性もあるため、動画の内容に合わせた正確な設定が重要です。
なお、今回の子ども向け設定と、暴力的な表現や性的な内容などを含む動画に適用される年齢制限は、別の仕組みとなっています。
YouTubeでは、未成年者に適さない内容を含む動画について18歳未満の視聴を制限する場合がありますが、内容によっては年齢制限だけでは認められず、コミュニティガイドラインに基づいて動画が削除されることもあります。
子ども向けではない動画を投稿しているからといって、今回のCOPPA対応とは無関係というわけではありませんので、チャンネル内の動画を改めて確認しておいた方がよさそうです。
日本ではどうなのか?
米国のCOPPAでは13歳未満を子どもとして定義していますが、日本では児童福祉法上の児童は18歳未満とされており、国や法律によって年齢の区分が異なります。
また、2019年現在の日本では、民法上の成年年齢は20歳となっているため、「児童」と「未成年者」の定義も必ずしも一致するものではありません。
ただし、日本で18歳未満を児童としているからといって、YouTubeに投稿した動画が一律に18歳未満を対象とする子ども向けコンテンツとして扱われるわけではありません。
YouTubeの視聴者設定では、米国のCOPPAにおける13歳未満という基準と、各国で適用される関連法令などを考慮して、動画の対象視聴者を判断する必要があります。
YouTubeとGoogleが米国の企業であることから、日本国内のクリエイターには関係のない規制のようにも思えますが、今回の視聴者設定は日本を含む世界中の動画投稿者が対象となっています。
そのため、日本国内だけで活動しているYouTuberであっても、動画を公開する際には、子ども向けコンテンツに該当するかどうかを正しく申告しなければなりません。
特に、子ども向けの教育動画やアニメ、おもちゃの紹介などを制作しているチャンネルでは、広告収益だけでなくコメントや通知、再生リストなどの機能にも影響する可能性があるため、事前に確認しておく必要がありそうです。
今回のYouTubeの規約変更は、動画投稿者にとって制限が増える内容ではありますが、もともとは子どもの個人情報を守るために導入されたものです。
一般向けの観光動画や風景映像、イベントの記録などを投稿しているチャンネルでも、動画の対象視聴者を正しく設定することが求められます。
2020年1月から予定されている機能制限によって、子ども向けコンテンツを中心に運営するチャンネルにどの程度の影響が出るのか、今後のYouTubeの動向が気になるところです。
アイキャッチ画像提供:フリー素材ぱくたそ







この記事へのコメントはありません。