秋田県仙北市にある抱返り渓谷(だきかえりけいこく)は、雄物川の支流である玉川の中流域に位置し、コバルトブルーやエメラルドグリーンに輝く美しい渓流と、豊かな自然に囲まれた景観が魅力の観光スポットです。新緑や紅葉の名所として知られ、特に秋には色鮮やかな木々と青い川が織りなす美しい風景を楽しもうと、多くの観光客が訪れます。今回は、2018年10月に訪れた抱返り渓谷の遊歩道を散策しながら、神の岩橋や回顧の滝などの見どころをご紹介します。
秋田県仙北市の観光地 抱返り渓谷とは?
秋田県仙北市の抱返り渓谷は、田沢湖と角館の間を流れる玉川中流域に形成された全長約10kmの渓谷で、田沢湖抱返り県立自然公園の一部にも指定されている自然豊かな景勝地です。
東北の耶馬渓とも称される抱返り渓谷は、切り立った岩壁や原生林、大小の滝が織りなす渓谷美が特徴で、川沿いに整備された遊歩道からは、コバルトブルーやエメラルドグリーンに輝く玉川の美しい流れを眺める事ができます。
渓谷の名前は、かつて人がすれ違う際に、お互いの体を抱きかかえるようにしなければ通れないほど道幅が狭く険しかった事に由来すると伝えられており、現在では遊歩道が整備され、新緑や紅葉など四季折々の自然を楽しめる秋田県仙北市の人気観光スポットとなっています。
抱返り渓谷を流れる玉川は、秋田県と岩手県の県境に広がる八幡平周辺を源流とし、仙北市を経て大仙市で雄物川に合流する河川ですが、かつては玉川温泉から強酸性の温泉水が流れ込む事によって、流域の農作物や魚類などに大きな被害をもたらしていました。
その強い酸性による被害から「玉川毒水」とも呼ばれ、江戸時代から水質改善に向けた対策が行われてきた歴史があります。
昭和15年(1940年)には、電源開発や農業用水の確保、酸性水の希釈などを目的として玉川の水を田沢湖に導入する事業が始まりましたが、その影響によって田沢湖の酸性化が進み、かつて全国有数の透明度を誇っていた湖の水質が悪化してしまいました。
この水質悪化によって田沢湖に生息していたクニマスをはじめ、多くの魚類が姿を消してしまいました。特にクニマスは長年にわたり絶滅したと考えられていましたが、2010年に山梨県の西湖で生息が確認され、種としては生き残っていた事が明らかになっています。
その後、玉川温泉から流れ出す強酸性水を石灰石によって中和する施設が整備され、平成元年(1989年)から本格的な水質改善に向けた取り組みが進められてきました。玉川下流域の水質は大きく改善されたものの、田沢湖では目標とする水質に達しておらず、湖の環境回復に向けた取り組みが続けられています。
このように、抱返り渓谷を流れる玉川には美しい自然景観だけではなく、周辺地域の生活や環境に深く関わってきた歴史もあります。
私が抱返り渓谷を訪れたのは2018年10月中旬で、紅葉が見頃を迎えるには少し早い時期でしたが、木々が徐々に色付き始めており、秋らしい風景が広がっていました。
せっかく訪れたので、青く澄んだ玉川の流れと自然豊かな渓谷の景色を眺めながら、遊歩道の散策を楽しんでみる事にしました。
抱返り渓谷入口に鎮座する抱返神社
抱返り渓谷の駐車場から遊歩道へ向かう途中には、古くから地域の人々に信仰されてきた抱返神社があります。
神社の入口に建つ鳥居をくぐると、右手側に抱返神社の境内があり、その先には玉川沿いに続く抱返り渓谷の遊歩道が整備されています。
抱返神社には、かつて抱返村の開墾が進められた際、厳しい日照りによって水田の水が不足し、困り果てた村人たちが水源で雨乞いをしたところ、たちまち大雨が降って救われたという伝説が残されています。
この出来事をきっかけとして村人たちの信仰が深まり、社殿を建て直して水尺大明神を祀ったと伝えられています。
また、大和国(現在の奈良県)の丹川上神社から分霊を勧請したという由緒もあり、現在は水波能売神(みずはのめのかみ)を御祭神として、雨乞いや龍神、水分神、養蚕の守護神として信仰されています。
自然豊かな抱返り渓谷の入口に鎮座する神社ですが、水を大切にしてきた地域の歴史を感じられる場所でもあり、遊歩道の散策と併せて立ち寄ってみるのも良いでしょう。
自然豊かな遊歩道の先に架かる全長80mの吊橋
抱返神社の境内前を通り抜けると、いよいよ抱返り渓谷の遊歩道に入ります。
入口付近はアスファルトで舗装された比較的歩きやすい道となっており、頭上を覆うように生い茂る木々のトンネルをくぐりながら、渓谷の奥へと進んでいきます。
遊歩道の右手側には時折、木々の間から玉川の美しい流れが見え、森林浴を楽しみながら散策する事ができます。
遊歩道をしばらく進むと、玉川に架かる全長約80mの吊り橋「神の岩橋(かみのいわばし)」が姿を現します。
神の岩橋は、大正15年(1926年)10月に奥地から切り出した木材を運搬する森林軌道のために架けられたもので、秋田県内で最も古い歴史を持つ吊り橋とされています。
現在の橋は昭和50年(1975年)に架け替えられたものですが、かつてこの場所を森林軌道が通っていた歴史を今に伝える貴重な存在です。
橋の名称は、当時の神代村と白岩村からそれぞれ一文字ずつを取って名付けられたもので、現在の遊歩道にも、かつての森林軌道跡が利用されています。
赤い吊り橋と周囲の緑豊かな森林、そして眼下を流れる青い玉川が織りなす景色は、抱返り渓谷を代表する見どころの一つとなっています。
神の岩橋から眺める抱返り渓谷の絶景
神の岩橋の上からは、玉川の両岸に広がる森林と切り立った岩壁、そして渓谷の間を流れる青い川を一望する事ができます。
抱返り渓谷の大きな魅力は、季節によって移り変わる森林の色彩と、独特の青さを持つ玉川の水面が織りなす美しい景観にあります。
春から初夏にかけては鮮やかな新緑が渓谷を包み込み、秋には赤や黄色に色付いた木々とコバルトブルーの渓流が鮮やかなコントラストを生み出します。
特に神の岩橋は、抱返り渓谷の風景を広く見渡せる撮影スポットでもあり、写真撮影や風景動画の撮影を楽しむ方にもおすすめできる場所です。
さらに奥へと進むと自然の豊かさが深まります
神の岩橋を渡ってさらに奥へと進むと、舗装された道から砂利道や岩場を含む散策路へと変わり、周囲には深い森林と切り立った岩壁が広がるようになります。
遊歩道の周辺には木々が生い茂り、場所によっては玉川の流れを直接眺める事が難しくなりますが、人工的な整備を最小限に抑えたような、自然そのものの景観を楽しめるのも特徴です。
個人的には、もう少し川を見下ろせるような開けた場所があれば、青く美しい玉川の風景をさらに楽しめるのではないかとも感じました。
ただし、抱返り渓谷は急峻な岩壁や斜面に囲まれており、樹木は斜面の土壌を支える役割も果たしています。安易な伐採は落石や土砂崩れなどの危険性を高める可能性があるため、自然環境の保全と観光の両立は簡単ではないのでしょう。
人の手が入りすぎていない豊かな森林もまた、抱返り渓谷ならではの魅力の一つなのかもしれません。
時々開ける視界と共に抱返り渓谷の風景が楽しめます
抱返り渓谷の遊歩道を歩いていると、所々に設けられた橋や視界の開けた場所から、玉川の流れや対岸に広がる森林を眺める事ができます。
訪れた2018年10月中旬は、まだ紅葉が始まったばかりの時期で、緑の葉に赤や黄色が少しずつ混ざり始めた秋らしい風景が広がっていました。
写真をご覧いただくと分かるように、遊歩道の多くは木々に囲まれているため、渓谷全体を見渡せる場所は限られていますが、時折現れる青い川と色付き始めた森林の景色が印象的でした。
また、玉川の水面は太陽光の当たり方や天候によっても見え方が変化するため、日差しが差し込む時間帯には、より鮮やかな青色を楽しめるのではないかと思います。
抱返り渓谷の紅葉は例年10月下旬から11月上旬頃に見頃を迎える事が多く、紅葉シーズンには青い渓流と色鮮やかな木々が織りなす美しい風景を楽しむ事ができます。
遊歩道の終着点 回顧の滝
抱返り渓谷の遊歩道を進んだ先にある代表的な見どころが、回顧の滝(みかえりのたき)です。
抱返神社付近の入口から回顧の滝までの距離は約1.5kmで、徒歩30分ほどの道のりとなっており、往復でも比較的気軽に散策を楽しめるコースです。
回顧の滝は、切り立った岩壁から白い絹のように流れ落ちる美しい滝で、通り過ぎた人が何度も振り返って眺めたくなるほどの景色である事から、その名前が付けられたと伝えられています。
遊歩道の途中には岩壁を掘り抜いたトンネルなどもあり、川沿いの森林や岩場の風景とともに、変化に富んだ自然散策を楽しむ事ができます。
私が訪れた当時は、回顧の滝からさらに奥へと続く遊歩道の一部が、土砂崩れや落石などの影響によって通行止めとなっており、渓谷展望台方面まで進む事ができませんでした。
抱返り渓谷は地形が険しく、雨や落石などの影響によって遊歩道の通行可能な区間が変わる場合があるため、散策する際には事前に確認しておくと安心です。
今回は紅葉の最盛期より少し早い訪問となりましたが、木々が色付き始めた秋の渓谷を歩きながら、美しい青色の玉川や神の岩橋、回顧の滝などの景色を楽しむ事ができました。
次回は紅葉が見頃を迎えた時期に、さらに奥まで遊歩道が開通している状態で、時間をかけてゆっくりと散策してみたいものです。
抱返り渓谷の映像
秋田の風景 田沢湖・抱返り渓谷 田沢湖抱返り県立自然公園
秋田県仙北市にある田沢湖抱返り県立自然公園の美しい風景を撮影した動画です。
日本一の深さを誇る田沢湖の湖畔風景をはじめ、抱返り渓谷を流れるコバルトブルーの玉川や、周囲に広がる自然豊かな森林など、秋田を代表する観光地の景色を映像に収めています。
特に抱返り渓谷では、独特の青い水面と緑豊かな森林が織りなす美しい景観が印象的で、写真とはまた違った自然の雰囲気を感じていただけるのではないでしょうか。
約6分30秒の映像となっておりますので、秋田県仙北市の田沢湖や抱返り渓谷への観光を検討されている方は、現地の風景や散策の参考としてご視聴いただければ幸いです。
抱返り渓谷 所在地や駐車場情報
抱返り渓谷は秋田県仙北市の田沢湖と角館の間に位置しており、JR角館駅から車で約15分、JR田沢湖駅からは約20分でアクセスできる観光スポットです。
遊歩道の入口付近には駐車場が整備されており、通常期は無料で利用できますが、紅葉祭などの開催期間中には有料となる場合があります。
抱返神社から回顧の滝までの散策距離は片道約1.5kmで、往復の移動時間に加えて写真撮影や景色を眺める時間も考慮すると、1時間から1時間30分程度を目安にすると良いでしょう。
ただし、遊歩道には未舗装の場所や濡れた岩場などもあるため、歩きやすい靴で訪れる事をおすすめします。また、冬季や悪天候時には通行止めとなる場合があるため、事前に散策路の状況を確認しておくと安心です。
| 所在地 | 秋田県仙北市田沢湖卒田 |
| 時間 | 24時間(遊歩道は冬季閉鎖・通行規制あり) |
| 駐車場 | 無料(紅葉シーズンなどは有料) |
| 交通アクセス | マイカー・バス・バイクなど |
| マップコード | 280 380 873*22(抱返り渓谷) 280 378 618*32(駐車場) |
| 関連ウェブサイト | 仙北市ウェブサイト |
※本記事は2018年10月の訪問記録をもとに作成しており、掲載している写真や散策路の状況、駐車場などの情報は取材当時のものです。遊歩道の通行規制や駐車場の利用条件などは変更される場合がありますので、最新の情報は仙北市の公式ホームページ等でご確認下さい。
また、本記事に掲載している写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。
















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