ファンタム電源の供給が可能な最大4チャンネルのXLR端子を備え、一眼レフカメラのレンズと同じ感覚で内蔵マイクを交換する事で様々なフィールドに対応するハンディ型リニアPCMレコーダーZOOM H6のレビューです。
記事内の目次
11年間使い続けたZOOM H4nの事
ZOOM H4nを初めて購入したのは、2009年の事。
当時はソニーの民生用ビデオカメラを使用して撮影をしていたんですが、オーディオ設定のオート機能が悪さをして一定の音量で収録出来ないだけではなく、外部マイクを使用してもマニュアルで音量の調整ができませんでした。
その時に散々悩んだ挙句、外部で収録した音声と映像をミックスすればいいんじゃないかと思って導入したのが、ZOOMのハンディレコーダーH4nです。
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当時のYouTubeでは高音質で音声を収録するという人も少なく、見ている限りでは珍しい試みではありましたが、音量が大きい場面でも音割れする事がなく高音質で収録できました。
長く使い続けたのも理由がありまして、2011年3月11日に発生した東日本大震災の時に自宅が浸水した時に、ほぼ全ての家財が使い物にならなくなった中で唯一無事だった機材がZOOM H4nでした。
ステンレス製の防湿庫を作って保管していたけど、津波で浸水した後に中に水が溜まっていたのは苦笑いするしか無かったです。 それでも生き残っていたZOOM H4nは自分にとってはお守りのような存在でした。
実際の所は、XLR端子に外部マイクを接続するような使い方しかしていなかったのですが、内部で接触不良を起こすようになっても補修しながら騙し騙し使用していたので、今回ZOOM H6に代替えする事になったのです。
ZOOM H6のレビュー
綺麗なケース付きで届きました。
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どのぐらい使用したのかは分かりませんが、今回は中古で安いZOOM H6を見つけたので、そちらを購入しております。
H6を使用していた前オーナーの扱いが丁寧だったのでしょうけど、ケースは傷も少なくとても綺麗な状態で届きました。
マイナーチェンジ版のZOOM H6/BLKではMSステレオマイク・カプセルが付属しないけど、こちらの中古品は同梱済み。
ソフトウェアのライセンスやクイックガイドも付属はしていませんでしたが、MS処理を行うMSデコーダーVSTプラグインはAdobe Auditionのプラグインとして読み込ませれば使用できました。
H4nとH6の比較
接触不良を起こしていたH4nのXLR端子は硬化型のシーリングでがっちり固めて動かないようにしたのですが、元々XLR端子と本体のケースの間に隙間があるので、コネクターを何度も脱着している間に内部で接触不良(基盤剥がれ?)を起こすようになってしまいました。
H6の外観が汚いのは表面のラバーコーティングが経年劣化でべたついてしまうのが原因なのだそうで、中古で購入したこの個体に限らずマイナーチェンジ前のZOOM H6では経年劣化で発生する仕様らしいです。
この個体もそうですが、見た目がかなり汚く見えてしまうので、ラバーコーティングを剥がしてしまいました。
シリコンオフでラバーコーティングを地道に剥がしたら綺麗になりましたが、ペイントリムーバーやシンナーは下地までも溶かしてしまう事があるので使用しないように。
H4nとH6を比較すると本体が一回り大きくなっていますが、操作性はかなり改善されております。以前は横の録音レベルのスイッチを押した後に音量を調整するトラックを選択してから調整をするという3度手間がかかっていましたが、H6では設定メニューを呼び出さずに上部のダイヤルで個別に調整をする事が可能になりました。
ただしハイアングルで撮影をするという条件では使いやすいとも言い切れない部分もあり、ダイヤルの側面に数字を記載してくれても良かったんじゃないかとも思う。
そして従来の機種では大音量を収録する場面でアッテネーターを割り込ませないと過大入力になってしまう事がありましたが、ZOOM H6では個別に設定ができる-20dBのPADスイッチが備わっているため、大音量での収録時も外部で音声信号を減衰させる必要もなく、マイク本来の音質そのままでの収録が可能になっています。
そして、以前はモノクロでオレンジ色のバックライトだった液晶モニターはH6でフルカラーとなり、夜間のような暗い場所でも、設定内容やレベルメーターがとても視認しやすくなっております。
カメラのレンズ感覚で交換可能な内蔵マイク
ZOOM H6では一眼レフカメラのレンズのようにマイクの付け替えが出来るようになりました。
標準のXYステレオマイク以外にもショックマウント搭載のXYステレオマイク、MSマイクカプセル、ショットガンマイクなど、収録するロケーションによって選択可能なオプションが用意されています。
ちなみにオプションのXLR/TRSインプットを取り付けると外部機器を6チャンネルも入力できるようになるのですが、こちらはファンタム電源の供給が出来ない仕様になっています。
長時間の運用が可能になった電源関係
ZOOM H4nでは2本の単三電池が電源となっていたため、+48Vのファンタム電源を供給すると1時間も経過しないうちにバッテリー切れを起こしてしまう事もありましたが、上位機種となるH6では4本の単三電池で運用するようになり、以前よりも長時間の録音が出来るようになりました。
連続駆動時間は16bit/44.1kHzで20時間以上となっていますが、ファンタム電源を使用すると20分から30分で電池残量が1目盛り減るので、長時間の撮影であれば外部電源は必須となります。
背面の1/4ネジ穴の下側が窪んでいるので、雲台との接触面積が少なく不安定感を感じるかもしれませんが、前後のバランスが均等に取れているので、ぐらつきなどは一切ありませんでした。
H4nではACアダプター以外の外部電力を供給できない仕様(原則)となっていましたが、H6ではUSBケーブルを介した外部電源の供給が可能になりました。
以前、SATOYAMA Video Channel様にZOOM H6の事を教えていただいた時にノイズが入るという話を聞いていたのですが、電源関係のノイズなのでは無いかと考えられます。
内蔵の電池とQCに対応していないモバイルバッテリーでは問題が無かったのですが、カメラのVマウントバッテリーから出力する14.8V以上の電圧を5Vに降圧してUSB端子から供給した際は、音声にノイズが乗りましたので、今の所はコンバーターのノイズが電源に乗ってしまっている線が有力なのではないかと考えられます。
ちなみにH4nを壊してしまった原因はこれ・・。モバイルバッテリーから5Vの丸形プラグに変換して電源を供給していたけれど、ACアダプター以外を使用出来ないそれなりの理由があったから取扱説明書に「使用するな」と記載してあったのだと思う。
でもファンタム電源が必要なペアマイクを使うと、あっという間にバッテリー切れになるので仕方がなかった部分でもあります。
その点ではH6のUSB給電がとても助かります。
LINE OUTとHEADPHONE OUTが独立してモニタリングしやすくなった
ZOOM H4nでは、ライン出力とヘッドフォン出力で共通の出力端子を使用していたのですが、H6ではヘッドフォン出力とライン出力で別々の端子が設けられ、ヘッドフォンでモニタリングをしながらDSLRカメラなどの入力端子に接続して収録する事も可能になりました。
音質の微調整などで、レコーダー側とカメラ側で別々の設定をしたい時に扱いにくかった箇所でもあったので改善されていたのが良かったです。
ZOOM H6の使用感
やはり外装のべたべたが気になる部分はあるが、H4nと比較すると収録中の設定変更や音量調整が以前よりも容易になりとても扱いやすくなったような印象は受けました。
特に音量調整がダイヤル式になった事とPADスイッチが内蔵された事で、収録する際の音量の幅が広がった事と、LCDディスプレイがカラーになったので音量や設定内容が一目で分かるようになったのが本当に素晴らしい進化であると感じました。
機能増加分サイズが大きくなってしまった事は仕方ないと割り切るしかないのだけれど、カメラバッグのZOOM H4nのスペースに入らなくなってしまった事に関してはまた改めて考えるしか無いのだと思う。
そしてH4nでは起動後のSDカードの読み込みに時間がかかって撮り逃しをしてしまう事もありましたが、H6では起動時間とSDカードの読み込み時間が大幅に短縮され、電源投入から5秒以内にREC状態に持ち込めるようになりました。
脱着式マイクカプセルの比較サンプルとして、XYマイクとM/Sマイク、外部マイクとしてMXL CR21で収録した音とBlackmagic pocket Cinema Camera 6Kで撮影した仙台空港の旅客機離着陸風景の映像をミックスした映像を用意しました。
このカメラは色がとても綺麗で映像に関しては申し分のない性能を発揮するのですが、内蔵マイク、音声入力共に満足のできるような音を収録出来ない欠点があります。
ZOOM H6 ASMR Handy Recorder with XY Microphone | Plane Spotting at Sendai Airport
のっぺりとした音になりやすいXYマイクで収録した映像は、従来機種よりも音の立体感が強調されており、位置関係がしっかりとした音で収録できるようになったと思う。
低域が少々物足りない感じはありますが、大口径の14.6mmダイヤフラムを搭載したことで、高域が落ち着いて全体的にナチュラルな音になり、繊細な音まで収録できるようになった印象も受けます。
そして、吹かれノイズにも耐性があり、屋外で使用する分にはXYマイクカプセルで収録しても充分素晴らしい音が収録が出来ました。
M/S Microphone for ZOOM H6 LPCM Recorder | Plane Spotting at Sendai Airport Shot on BMPCC 6K
旧バージョンのH6に同梱されているM/Sマイク(MSH-6)は、特に感度が弱いサイドマイクのノイズが耳障りな印象もあって、これ以上音量を上げる事は出来ませんでした。
M/S処理を行った後は滑走路の手前にある道路の音と一緒にノイズも増幅されてしまうので、離れた場所から音を収録する分にはイマイチな結果となりましたが、XYマイクで収録した時よりも、吹かれノイズの影響はほとんど気にならないレベルに落ち着いているようです。
どちらかと言うと狭いホールで大編成の演奏を近くで収録する時の方が、向いているマイクなのではないかと思う。
MXL CR21 Pair Condenser Microphones with ZOOM H6 | Plane Spotting at Sendai Airport
ZOOM H6の3/4トラックをステレオリンクさせて、今年の夏から使用しているステレオペアマイクのMXL CR21を接続して音を収録しました。
+48Vのファンタム電源で駆動するステレオペアマイクなのですが、ZOOM H6の交換型マイクカプセルよりも低域の音がしっかりして重厚感のある音で収録出来ており、1万円台の低価格マイクでありながらコストパフォーマンスの高い音質には驚いています。
新品で6万円以上するRODE NT4からの乗り換えではありますが、音質が低下したというイメージも無くすんなりと受け入れる事が出来ました。
この音質はH4nに接続した時と比較して大差が無いと思っていた所だったのですが、外部マイクに関しては以前よりも繊細で音の再現力が明らかに良くなったという印象もあります。しかし、その分左右のバランスを調整する微調整がシビアになった感じもします。
もう一点がステレオリンクを使用してXLR端子からの入力を1つのステレオトラックとして収録をする際は、1と2、3と4の組み合わせ以外はリンクをする事が出来ないので、使い慣れないと左右が分からなくなってしまう事もございます。
筆者の場合は、3と4のトラックでステレオリンクを使用し、XLR端子付近にLR表示を書いたシールを貼って対応しましたが、ステレオリンクの時は片方のダイヤルを音量調整に割り当てて、もう片方はバランス調整に割り当てる機能の方が操作は楽なような感じもしております。
長年使用していたH4nを使用できなくなってしまったのは寂しくなってしまった部分はあるのだけれど、中古でもZOOM H6を購入して良かったと思います。
現在はH6が販売中止となり、2020年にZOOM H6/Black Editionとなったマイナーチェンジ版が販売されていますが、ベトベトのラバーコーティングからシボ加工への変更とM/Sマイクカプセルが付属しなくなったのみで機能はほぼ変わっていないようです。
経年劣化で発生するラバーコーティングのベトベトを拭き取れる人や気にしない人なら、旧バージョンの中古の方がお得になりますが、正直な所触り心地はかなり気持ち悪いです。
中古で旧製品を購入してもブラックエディションの新品とさほど値段は変わっていないようなので、新品をオススメしておきます。
ZOOM H6のスペック
記録メディア
SDカード 16MB~2GB
SDHCカード 4GB~32GB
SDXCカード 64GB~128GB
音声入力
マイクカプセル
XYH-6 (XYマイク)
マイク: 単一指向性
感度: –41dB/1Pa 1kHz
入力ゲイン: -∞〜46.5dB
最大入力音圧: 136dB SPL
XYH-6 (MIC/LINE IN)
コネクタ: 1/8″ステレオミニジャック
入力ゲイン: –∞〜46.5dB
入力インピーダンス: 2kΩ
プラグインパワー: 2.5V対応
MSH-6 (MSマイク)
マイク: 単一指向性&双指向性
感度: –37dB/1Pa 1kHz(単一指向性)
–39dB/1Pa 1kHz(双指向性)
入力ゲイン: – ∞〜42.5dB
最大入力音圧: 120dB SPL(単一指向性)
122dB SPL(双指向性)
SGH-6 (ショットガンマイク)
マイク: 単一指向性(マイクユニット×3)
ポーラーパターン: スーパーカーディオイド
感度: –39dB/1Pa 1kHz (各マイクユニット)
入力ゲイン: –∞〜50dB
最大入力音圧: 122dB SPL
INPUT 1~4
コネクタ: XLR/TRS コンボジャック
(XLR:2 番ホット / TRS:TIP ホット)
入力ゲイン(PAD OFF): – ∞〜55.5dB
入力ゲイン(PAD ON): – ∞〜35.5dB
入力インピーダンス: 1.8kΩ or more
最大許容入力レベル: +22dBu(PAD ON)
ファンタム電源: +12/+24/+48V
(INPUT1 ~4個別にON/OFF)
入力換算雑音(EIN): –120dBu 以下
音声出力
LINE OUT
コネクタ: 1/8″ステレオミニジャック
定格出力レベル: –10dBu (出力負荷インピーダンス 10kΩ以上時)
PHONE OUT
コネクタ: 1/8″ステレオミニジャック
出力レベル: 20 mW + 20 mW into 32 Ω load
スピーカー 400mW 8Ωモノラルスピーカー
記録フォーマット
WAV
サンプリング周波数: 44.1/48/96kHz
量子化ビット数: 16/24bit
(モノ/ステレオ、BWF準拠)
最大同時録音トラック数: 8 (6トラック+バックアップ録音時)
(バックアップ録音: L/Rの入力ゲイン設定から–12dB)
MP3
サンプリング周波数: 44.1kHz
ビットレート: 48〜320kbps
(最大同時録音トラック数: 2)
録音時間 (2GBカード使用時)
3 時間8 分(WAV 44.1kHz/16bit)
34 時間43 分(MP3 128kbps)
ディスプレイ
2.0インチ フルカラ—LCD(320 x 240 ピクセル)
USB
マスストレージクラス動作
クラス: USB2.0 High Speed
オーディオインターフェース動作:マルチトラックモード
クラス: USB2.0 High Speed
入出力チャンネル: 6 IN / 2 OUT
サンプリング周波数: 44.1/48/96kHz
量子化ビット数: 16/24 bit
※ USBバスパワーで駆動に対応
オーディオインターフェース動作:ステレオモード
クラス: USB2.0 Full Speed
入出力チャンネル: 2 IN / 2 OUT
サンプリング周波数: 44.1/48kHz
量子化ビット数: 16 bit
※ USBバスパワーで駆動に対応
※iPad用オーディオインターフェース動作サポート(ステレオモードのみ)
電源
単3電池 × 4 本
アルカリ電池またはニッケル水素電池を使用可能
AC アダプタ: DC5V / 1A (別売AD-17)
USB バスパワー
電池寿命
連続駆動時間: 20時間以上 (アルカリ電池使用、16bit/44.1kHz WAVフォーマット録音時)
外形寸法 / 重量
H6本体 77.8mm (W) x 152.8mm (D) x 47.8mm (H), 280g
XYH-6: 78.9mm (W) x 60.2mm (D) x 45.2mm (H), 130g
MSH-6: 58.0mm (W) x 67.6mm (D) x 42.1mm (H), 85g
付属品
取扱説明書
XYマイク・カプセル(XYH-6)
MSマイク・カプセル(MSH-6)
単3電池 × 4 本
USBケーブル
ウィンド・スクリーン(スポンジ)
Steinberg Cubase LE (ダウンロード・ライセンス)
Steinberg WaveLab LE (ダウンロード・ライセンス)
キャリングケース
ZOOM H6の購入
ZOOM ズーム 2020モデル リニアPCM/IC マイクカプセル交換型 ハンディレコーダー【メーカー3年延長保証付】 H6 BLACK
BOYA ショックマウント BY-C10 マイクホルダー デジタルオーディオ、レコーダー、デジタル一眼レフに対応 振動防止 (ブラック) 【並行輸入】
ショックマウントはタッチノイズや三脚等から伝わる振動を吸収し、収録時に入り込む不快な音を軽減する役割を果たすとても重要なパーツとなります。
ZOOM社の32bit float収録PCMレコーダーはこちらの記事でご紹介しています。
レコーディング中の音量調整が不要で、過大入力による音の歪みを排除し、小さな音でもノイズが気にならない失敗のないレコーディングを目指して開発された、32bitフロート録音フィールドレコーダー、ZOOM F3のレビューです。 音量調整不要!ZOOM F3 32bitフロート録音フィールドレコーダーのレ...
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