近年、外国人観光客を地方へ呼び込むインバウンド誘致が積極的に進められています。しかし、観光客を増やす取り組みが注目される一方で、実際に旅行者を迎える地域の店舗や民間事業者には、十分な受け入れ準備が整っていない場合もあります。
私が宮城県内を観光していた際、偶然にも外国人旅行者の団体ツアーと居合わせる機会がありました。そこで目にしたのは、言葉の壁に戸惑いながらも、一生懸命に外国人観光客をもてなそうとする店舗の方々の姿でした。
今回は、その時に体験した出来事を通して、宮城県のインバウンド誘致の課題や、地方の観光地における外国人観光客の受け入れ体制、行政と民間事業者の連携について考えてみたいと思います。
インバウンド誘致とは?
写真提供:フリー素材ぱくたそ(https://www.pakutaso.com)
テレビや新聞などでも耳にする機会が増えている「インバウンド」とは、一般的に海外から日本を訪れる外国人旅行者や、その旅行需要を指す観光業界の用語です。
インバウンド誘致とは、海外に向けて観光情報を発信したり、旅行会社などと連携したりすることで、日本を訪れる外国人旅行者を増やす取り組みを意味します。
外国人観光客が都市部だけでなく地方の観光地にも足を運ぶことで、宿泊施設や飲食店、土産物店などでの消費が生まれ、地域経済の活性化や雇用の創出といった経済効果が期待されています。
日本政府観光局(JNTO)が発表した統計によると、2017年の訪日外客数は前年比19.3%増の約2,869万人に達し、当時の過去最高を記録しました。
訪日外国人旅行者の増加に伴い、各自治体でも日本の美しい風景や歴史、文化、食などの観光資源を海外に紹介し、地方への誘客につなげる取り組みが進められています。
宮城県でも、海外向けの観光プロモーションや外国人観光客の受け入れ環境の整備など、インバウンド観光を推進するための施策が展開されています。
しかし、外国人観光客を呼び込むことと、実際に地域で受け入れることは別の問題です。
どれほど多くの旅行者を誘致できたとしても、観光先の店舗や施設が対応に困ってしまうようでは、旅行者に十分なおもてなしを提供することが難しくなります。
私自身、偶然立ち会った外国人旅行者の団体ツアーを通して、地方のインバウンド誘致には、観光客数を増やすことだけでは解決できない課題があると感じました。
民間レベルでは十分なおもてなしが出来ていない現状
私が観光を楽しんでいた際、ちょうど外国人旅行者の団体ツアーが訪れており、観光を終えた旅行者が駐車場に停められた観光バスへ戻る途中で、ある出来事がありました。
観光地から駐車場までの道沿いには店舗があり、ツアーに参加していた外国人旅行者の中には、軽食を購入したり、休憩したりする方が大勢いました。
お店の方々も旅行者を歓迎している様子でしたが、外国語で商品の説明をすることが難しく、身振り手振りを交えながら、何とか接客をしている状態でした。
また、購入した軽食を食べ終えた後、ゴミをどこに捨てればよいのかわからず、困っている外国人旅行者の姿も見かけました。
偶然その場に居合わせた私たちも、身振り手振りでゴミの捨て方を伝え、何とか理解していただくことができました。
外国人旅行者の方々が悪いわけでも、店舗の方々に問題があるわけでもありません。言葉や生活習慣の違いによって、普段であれば何でもないような場面でも、意思疎通が難しくなってしまうのです。
その後、団体ツアーの旅行者が次の目的地へ向かい、慌ただしかった店先も落ち着きを取り戻しました。
そこでお店の方と目が合い、声をかけたところ、思いがけない言葉が返ってきました。
「旅行先に指定されても、どうすればいいのかわからない」
詳しく話を聞いてみると、外国人旅行者が訪れてくれること自体は大変ありがたく、できる限りのおもてなしをしたいと考えているそうです。
しかし、言葉が通じないため、商品をどのように説明すればよいのか、何を案内すればよいのかもわからず、対応に苦労しているとのことでした。
外国人観光客への接客に関する研修や、簡単な外国語の案内マニュアルなどが十分に整っていない状況では、突然大勢の旅行者が訪れても、現場で働く方々が戸惑ってしまうのは無理もありません。
お店の方からは、当時の宮城県知事である村井嘉浩氏が進めるインバウンド誘致についても、外国人観光客を呼び込むだけでなく、受け入れる民間事業者への支援やフォローを充実させてほしいという趣旨の不満が聞かれました。
ただし、この団体ツアーの旅行日程を実際に誰が決定したのか、また、その店舗が行政の支援制度を利用できる状況だったのかについては、私自身が確認できたわけではありません。
実際、宮城県が2018年3月に策定した「第4期みやぎ観光戦略プラン」には、外国人観光客の受け入れ環境を整備する事業者への経費支援や、多言語案内表示の整備、観光事業者の連携促進などが盛り込まれています。
そのため、宮城県が民間事業者への支援を全く行っていないと断定することはできません。
しかし、今回お話を伺った店舗では、外国人観光客への対応方法がわからず、実際の接客に苦労していたことも事実です。
行政が支援制度を用意していたとしても、その情報が必要としている店舗に届いていなかったり、現場で求められている支援と制度の内容が一致していなかったりすれば、十分な効果は期待できません。
特に、宮城県のように都市部から地方の観光地まで幅広い観光資源を持つ地域では、宮城県のインバウンド誘致の課題として、外国人観光客の受け入れ体制や多言語対応の充実が重要になると感じました。
外国人旅行者への接客に必要なのは、必ずしも流暢な外国語を話せる人材だけではありません。
商品の内容や価格を説明する簡単な外国語の案内、ゴミ箱やトイレの場所を示すわかりやすい表示、よくある質問をまとめた接客マニュアルなど、比較的身近な対策でも旅行者の不安を軽減できるはずです。
また、外国人旅行者のツアーを受け入れる前に、旅行会社や観光関係者が地域の店舗と情報を共有し、想定される来訪人数や必要な対応について相談できる仕組みも大切だと思います。
行政によるインバウンド誘致は、外国人観光客を呼び込んだ時点で終わるものではありません。
むしろ、旅行者が実際に地域を訪れた時に、安心して観光や買い物を楽しめる環境が整っていることこそ、継続的な誘客や地域経済の活性化につながる重要な要素ではないでしょうか。
私も今回の出来事を通して、外国人旅行者に「日本に来て良かった」「また宮城県を訪れたい」と思っていただくためには、観光地の魅力を海外へ発信するだけでなく、受け入れる側への継続的な支援が欠かせないと感じました。
外国人観光客を歓迎したいという地域の方々の気持ちを、実際のおもてなしにつなげられるよう、行政・旅行会社・民間事業者が協力して受け入れ環境を整えていくことを期待しています。








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